【健康コラム 98 】「何もないところでつまずく」のはなぜ?足が上がらないだけではない意外な原因

「最近、何もないところでつまずくことが増えた」

そんなとき、「足を上げる筋力が落ちたのかな?」と思う方は多いかもしれません。

確かに筋力低下は原因の一つです。しかし歩く仕組みを詳しく見ると、つまずきには「足を高く上げられるか」だけではないポイントがあります。

注目したいのが、

① つま先を持ち上げる力
② 足と床のすき間
③ 地面を蹴って次の一歩へ進む力

です。

👣 実は、つま先は床のすぐ近くを通っています

歩いているとき、前に振り出した足は、ずっと高い位置にあるわけではありません。

途中で、つま先が床すれすれを通過する瞬間があります。

この「足と床とのすき間」を、専門的には足部クリアランスと呼びます。

特につま先と床との距離が最も小さくなる部分は、「最小つま先クリアランス」と呼ばれ、つまずきを考えるうえで重要なポイントです。

つまり大切なのは、単純に「脚を高く上げられるか」ではありません。

床すれすれを通る瞬間に、つま先をきちんと浮かせておけるか。

ここがポイントなのです。

わずかな段差やカーペットでつまずくようになった場合、この小さな「すき間」をうまく確保できなくなっている可能性があります。

🦵 「ももを上げる」だけではありません

ここで重要になる筋肉の一つが、前脛骨筋(ぜんけいこつきん)です。

少し難しい名前ですが、簡単にいうとすねの前側にある筋肉です。

椅子に座ったまま、かかとを床につけて、つま先だけを持ち上げてみてください。

すねの前側が硬くなるのが分かると思います。そこにあるのが前脛骨筋です。

前脛骨筋には、足首を反らしてつま先を持ち上げる大切な働きがあります。

歩いて足を前へ振り出すときにも働き、つま先が下を向きすぎないようにしています。

そのため、前脛骨筋がうまく働かなくなると、脚そのものは前へ出ていても、つま先だけが少し下がり、床とのすき間が小さくなることがあります。

つまり、

「足は上げているのに、つま先が引っかかる」

ということも起こるのです。

🦶 実は「後ろ足の蹴り出し」も大切

では、前脛骨筋だけ鍛えればつまずきを防げるのでしょうか。

そう単純でもありません。

もう一つ重要なのが、ふくらはぎにある下腿三頭筋(かたいさんとうきん)です。

下腿三頭筋は、かかとを持ち上げて地面を押し、身体を前へ進める働きをしています。

歩行では、

後ろ足で地面を押す
↓
身体が前へ進む
↓
足が地面から離れる
↓
前脛骨筋がつま先を持ち上げる
↓
床に引っかからず足が前へ出る

という一連の流れが繰り返されています。

つまり、前に出す足だけを見ていては不十分なのです。

後ろ足の「蹴り出し」から、すでに次の一歩は始まっています。

🔄 ふくらはぎとアキレス腱は「バネ」のように働く

さらに歩行には、筋力だけではなく身体が持っている「バネ」の力も使われています。

その代表が、下腿三頭筋とアキレス腱です。

歩いているとき、アキレス腱などには一時的にエネルギーが蓄えられ、それが蹴り出すときに利用されます。

イメージとしては、

ゴムを伸ばす
↓
元に戻ろうとする力が生まれる
↓
その力を次の動きに利用する

という仕組みに近いものです。

私たちは一歩ごとに筋肉の力だけで頑張っているのではなく、この「バネ」の力も利用することで、効率よく歩いているのです。

加齢などによって蹴り出しが小さくなると、この仕組みも十分に生かしにくくなり、歩幅や歩き方そのものが変化することがあります。

💡 「つまずく」は一つの筋肉だけの問題ではない

ここまでを簡単に整理してみましょう。

歩くときには、

ふくらはぎ・アキレス腱
→ 後ろから身体を押し出す

股関節・膝関節
→ 足を前へ運ぶ

前脛骨筋
→ つま先を持ち上げる

という、それぞれの役割があります。

これらがうまく連動することで、「つま先と床とのすき間=足部クリアランス」が作られます。

そのため、「最近つまずくようになった」という変化を、単純に「ももを上げる筋力が弱くなった」と考えるだけでは十分ではありません。

歩くための一連の動きが、以前ほどうまくつながらなくなっている。

そんな可能性も考える必要があります。

🧠 「歩きながら何かする」と、さらに難しくなる

さらに、歩行には筋肉だけでなく脳も関係しています。

例えば、

「歩きながら会話する」
「周囲を見ながら歩く」
「考え事をしながら歩く」

といった場面です。

こうした「歩く+別のことをする」状態は、専門的には二重課題(デュアルタスク)と呼ばれます。

歩くことは簡単そうに見えますが、脳は足の位置や身体のバランス、周囲の状況などを絶えず処理しています。

そこに会話や考え事などが加わることで、歩行の細かな調整が難しくなる場合があります。

「普段は大丈夫なのに、話しながら歩くとつまずく」

という場合には、筋力だけではなく、脳と身体の連携という視点も大切です。

【健康コラム 91 】で、詳しく解説していますので、こちらもチェックしてみてください!

🏠 自宅でできる「つまずき予防」

つまずき予防では、「もも上げ」だけではなく、歩行に必要な複数の働きを意識してみましょう。

① つま先上げ

椅子に座り、かかとを床につけたまま、つま先をゆっくり持ち上げます。

このとき使うのが、すねの前側にある前脛骨筋です。

まずは10回程度から、無理のない範囲で行いましょう。

② かかと上げ

安定した椅子や机につかまり、かかとをゆっくり持ち上げます。

こちらは主にふくらはぎの下腿三頭筋を使います。

「つま先を上げる筋肉」と「地面を押す筋肉」。

両方を使えることが歩行では大切です。

③ 歩くときは「後ろ足」も意識する

安全な場所で、いつもより少しだけ歩幅を意識して歩いてみましょう。

無理に足を高く持ち上げたり、大股にしたりする必要はありません。

後ろ足で地面を押す
→ つま先を持ち上げる
→ 足を前へ運ぶ

という一連の流れを意識してみるのもよいでしょう。

※転倒に不安がある方は、必ず安定した机や手すりなどにつかまり、安全を確保したうえで行ってください。

🌱 「足が上がらなくなった」で終わらせない

何もないところでつまずくと、

「歳だから仕方ない」
「足をもっと高く上げればいい」

と思ってしまいがちです。

しかし実際の歩行では、

後ろ足で地面を押す。
足を前へ運ぶ。
前脛骨筋でつま先を持ち上げる。
床とのわずかなすき間を確保する。
そして次の一歩につなげる。

という細かな動きが繰り返されています。

つまり「何もないところでつまずく」のは、単純に足が上がっていないだけとは限りません。

大切なのは、

「つま先を持ち上げる力」
「後ろから押し出す力」
「足と床とのすき間」

この3つです。

「最近、少しつまずくことが増えたな」という変化は、普段は意識することのない自分の歩き方を見直すサインとして捉えてみてもよいかもしれません。