【健康コラム 100 】「秋は転びやすい」って本当?専門家が見る“季節と転倒”の意外な関係
「最近、ちょっとつまずくことが増えた気がする」
そんな変化を感じていませんか?
実は、転倒には筋力や年齢だけでなく、季節や生活環境の変化も関係している可能性があります。
秋になると気温が下がり、日が短くなり、服装や外出する時間も変わります。
今回は「寒くなると筋肉が硬くなるから」という単純な話ではなく、秋から冬にかけて私たちの身体と生活に何が起こるのかという視点から、転倒との関係を考えてみましょう。
🍂 本当に秋・冬は転倒が増える?
特別養護老人ホームの転倒・転落事故を調査した2023年の研究では、転倒件数は春に最も少なく、秋・冬に多くなる傾向が報告されています。
さらに、屋外気温や日射量が高いほど転倒件数が少ないという関連も示されました。
また、2025年に発表された転倒の疫学に関する総説でも、地域在住高齢者では年間10~25%程度に転倒がみられ、季節では夏より冬の転倒率が高いことが紹介されています。
ただし、ここで注意したいのは、
「秋になったから転びやすくなる」と単純には言えない
ということです。
最初の研究は特別養護老人ホームを対象にしたものであり、すべての人にそのまま当てはまるわけではありません。
大切なのは、季節が変わることで、転倒につながる条件も少しずつ変化するという視点です。
🌡️ ① 気温が下がると「動き始め」が変わる
寒い日に外へ出た瞬間、
「身体が動きにくい」
「足が出にくい」
と感じた経験はないでしょうか。
寒さへの反応や身体機能には個人差がありますが、秋から冬にかけては室温を含めた温熱環境そのものにも注目する必要があります。
地域在住高齢者907名を分析した研究では、冬季の居間の床付近の平均室温が18℃以上だった群は、12℃未満だった群と比べて、住宅内で年1回以上転倒するオッズが低かったことが報告されています。因果関係を証明する研究ではありませんが、転倒を考えるうえで「部屋の寒さ」も無視できないことを示しています。
つまり転倒予防というと「足腰を鍛える」ことに目が向きがちですが、身体が動きやすい環境を整えることも大切なのです。
🚶 ② 寒くなると「動く量」が変わる
秋が深まり、冬が近づくにつれて、
「今日は寒いから散歩はやめておこう」
「暗くなるのが早いから外出を控えよう」
という日も増えてきます。
活動量が少ない状態が続けば、筋力だけでなく、バランス能力や身体を素早く立て直す能力を使う機会も減っていきます。
厚生労働省も高齢者には、筋力トレーニングだけではなく、バランス運動などを組み合わせた「多要素な運動」を推奨しています。
「転ばないために筋肉をつける」だけではなく、「普段から身体を動かす機会を減らさない」ことも重要なのです。
🧥 ③ 秋は「服装」も変わる
意外と見落とされやすいのが服装です。
夏の軽装から、
・長ズボン
・厚手の靴下
・上着
・コート
などへ変化していきます。
衣服が直接転倒を増やすと一概には言えませんが、季節の変わり目には「身体だけでなく身につけるものも変わっている」ことは意識しておきたいポイントです。
特にズボンの裾が長くなっていないか、室内履きが脱げやすくないかなど、足元を一度確認してみましょう。
🌇 ④ 日が短くなると「見え方」が変わる
秋になると日没時刻が早くなります。
夕方の散歩や買い物では、夏には明るかった時間でも足元が暗くなっていることがあります。
段差、道路の凹凸、落ち葉などを発見するタイミングが遅くなれば、足を出したり身体を立て直したりする時間も短くなります。
「いつもの時間だから大丈夫」ではなく、季節によって同じ時間帯でも環境が違うと考えることが大切です。
🍁 ⑤ 足元の環境も変わっている
秋ならではの変化として、落ち葉や雨で濡れた路面などもあります。
転倒は「本人の筋力不足」だけで起こるものではありません。
近年の転倒研究では、
身体機能などの内的要因
+ 住環境などの外的要因
+ 行動に関する要因
など、複数の要因から転倒リスクを考えることが重要とされています。
足腰に問題がなくても、
「暗い」
「滑りやすい」
「急いでいる」
といった条件が重なれば、転倒につながる可能性は変わります。
🦵 専門家が見る「秋の転倒」のポイント
ここまでを整理すると、
気温が下がる
↓
服装や外出時間が変わる
↓
活動量や身体を動かす機会が変わる
↓
暗さや路面など周囲の環境も変わる
↓
そこに筋力・バランス能力など個人の身体機能が重なる
という見方ができます。
つまり、
「秋だから転ぶ」のではなく、秋になると“転倒に関係する条件”がいくつも変化する。
これが重要なポイントです。
✅ 秋から始めたい「転ばない身体と環境」づくり
特別なトレーニングを始める必要はありません。
まずは、
・寒くなっても日中に身体を動かす
・立ち座りなど、日常生活で足を使う機会を減らさない
・片足立ちなど、安全にできる範囲でバランス運動を取り入れる
・夕方の外出では明るさや足元を意識する
・ズボンの裾、靴、室内履きを確認する
・室内を極端に寒くしない
といったところから始めてみましょう。
🍂 まとめ
「秋は転びやすい」という言葉だけを見ると、少し不安になるかもしれません。
しかし、大切なのは季節そのものを怖がることではありません。
秋は、自分の身体だけでなく「生活環境の変化」に気づくタイミング。
「最近、外へ出る回数が減っていないかな?」
「夕方、足元が見えにくくなっていないかな?」
「去年より歩くスピードが落ちていないかな?」
そんな小さな変化を確認しておくことが、これから迎える冬の転倒予防にもつながります。
参考資料
・奈良玲伊ほか「特別養護老人ホームにおける転倒・転落の季節毎の特徴と気象データとの関連」日本建築学会計画系論文集,2023
・スマートウェルネス住宅調査グループ「地域在住高齢者における冬季の室温と年間の住宅内の転倒の関連」日本老年医学会雑誌,2024
・萩野浩「転倒の疫学」The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine,2025
・厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

