【健康コラム 84 】あなたはショート?ロング?それとも“リカバリースリーパー”?――睡眠は『時間』から『回復力』の時代へ!

「7時間くらい寝たはずなのに、朝からだるい」
「昔より眠りが浅くなった気がする」
「休日にたくさん寝ても疲れが抜けない」

そんな経験はありませんか?

睡眠というと、つい「何時間眠ったか」に目が向きます。しかし最近の睡眠研究では、睡眠時間だけではなく、“眠ったことでどれくらい休養できたと感じるか”も大切だと考えられています。

この感覚を「睡眠休養感」といいます。

毎日の睡眠を「○時間寝なければ」と数字だけで考えるのではなく、朝起きたときの自分の状態にも目を向けてみる。

これが、これからの睡眠との付き合い方のひとつです。


😴 「何時間寝たか」だけでは分からない睡眠の質

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人について6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することに加えて、睡眠休養感を高めることがすすめられています。

睡眠休養感とは、簡単にいえば、

「朝起きたときに、ちゃんと休めたと感じられるか」

ということです。

たとえば同じ7時間眠ったとしても、

「すっきりした。今日も動けそう」

という日もあれば、

「まだ眠い……」
「身体が重い」
「頭がぼんやりする」

という日もあります。

つまり、睡眠は「長さ」だけでは評価できないのです。

実際、日本の高齢者を対象とした研究でも、睡眠の時間と質を組み合わせて評価することの重要性が報告されています。


🧠 睡眠は「脳と身体のメンテナンス時間」

私たちが眠っている間、身体が完全に活動を止めているわけではありません。

睡眠中には、身体や脳の回復に関わるさまざまな働きが行われています。

そのため睡眠不足が続けば、単に「眠い」だけでは済まないことがあります。

これまでの研究では、睡眠不足と肥満、高血圧、糖尿病、心血管疾患、精神的な健康などとの関連が指摘されています。また、睡眠と認知機能・認知症との関係についても研究が進められています。

さらにある日本の研究では、6時間未満の睡眠が糖尿病の新規発症、不規則な就寝時刻が心血管イベントの新規発症とそれぞれ関連していたことが報告されています。

大切なのは、

睡眠も、食事や運動と同じ「健康習慣のひとつ」

と考えることです。


⏰ 実は「寝る時間のバラバラ」にも要注意

「平日は仕事があるから6時起き。でも休日は10時まで寝る」

そんな生活になっていないでしょうか。

平日と休日で睡眠時間帯が大きくずれる状態は、海外旅行の時差ぼけになぞらえて「社会的ジェットラグ」と呼ばれることがあります。

私たちの身体には「体内時計」があります。

起床、食事、活動、光、睡眠などがある程度規則的に繰り返されることで、身体は一日のリズムを作っています。

ところが、

平日は早起き
→ 金曜・土曜は夜更かし
→ 休日は昼近くまで寝る
→ 日曜の夜に眠れない
→ 月曜日の朝がつらい

という生活になると、生活時間と身体のリズムにズレが生じやすくなります。

社会的ジェットラグは、睡眠不足や生活習慣病との関連からも研究されています。

厚生労働省も、休日の大幅な「寝だめ」は、むしろ平日の睡眠不足のサインになっている可能性を指摘しています。

休日に少しゆっくりすること自体が悪いわけではありません。

まずは「平日と休日で生活リズムを大きく変えすぎない」ことを意識してみましょう。


🌞 良い睡眠は「夜」ではなく「朝」から始まる

眠れないと、

「早く寝なければ」
「今日は絶対8時間寝よう」

と夜の行動ばかり気にしてしまいます。

しかし睡眠を整えるためには、実は朝からの過ごし方も重要です。

特別な「睡眠法」を始めなくても構いません。

朝はなるべく同じ時間に起きる。
日中は身体を動かす。
夜は少しずつ活動量を落とす。

こうした生活のメリハリが、夜の眠りにつながっていきます。

特に高齢になると日中の活動量が少なくなり、長い昼寝や長時間ベッドで過ごす生活になりやすいため、昼間に活動する時間を確保することが大切だとされています。


🌡️ 夏の「眠りが浅い」は寝室の暑さが原因かも

夏は「最近よく眠れない」という人が増えやすい季節です。

その原因のひとつが寝室の温度です。

高齢者の夏の寝室環境を調査した研究では、寝室温度が29℃を超える環境では、睡眠の質や主観的な睡眠評価が低下することが報告されています。興味深いのは、実際には室温が高くても、本人は「涼しい」「快適」と感じているケースがあったことです。

特に高齢になると、

「自分が暑いと感じているか」だけを室温管理の基準にしないこと

も大切です。

エアコンや扇風機などを上手に利用しながら、寝室を眠りやすい環境に整えましょう。


🛏️ 「長く寝れば寝るほど健康」は間違い?

ここも誤解されやすいポイントです。

睡眠不足が身体によくないからといって、長時間ベッドにいればいるほど健康になるわけではありません。

特に高齢者では、必要以上に長く床の中で過ごす「長い床上時間」と健康との関係が注目されています。

そして必要な睡眠時間を確保しながら、過剰に寝床で過ごさないことが重要とされています。

「眠れないから、とりあえず早く布団に入る」

という習慣が、必ずしも良い結果につながるとは限りません。

高齢になるほど睡眠時間だけではなく、

昼間は活動し、夜は休む。

このメリハリを意識してみましょう。


🌿 今日からできる「眠りを整える5つの習慣」

睡眠を改善しようとして、生活を一気に変える必要はありません。

まずは次の5つから、できそうなものを一つ選んでみてください。

① 朝の起床時間をなるべく一定にする
休日も極端な朝寝坊を避け、身体のリズムを整えます。

② 日中に身体を動かす
散歩や買い物、家事などでも構いません。「昼間に活動する時間」を作ることが大切です。

③ 長すぎる昼寝を避ける
昼寝が長くなりすぎると、夜の眠りに影響することがあります。

④ 寝室の光・音・温度を見直す
特に暑い季節は、「暑く感じないから大丈夫」と思い込まず、室温も確認してみましょう。

⑤ 朝の自分に聞いてみる
「何時間寝た?」だけではなく、
「今朝、ちゃんと休めた感じがする?」
と自分に問いかけてみてください。


☕ 「眠れない=努力不足」ではありません

睡眠について知識が増えるほど、

「8時間寝なければ」
「スマートウォッチの睡眠スコアを上げなければ」
「もっと深く眠らなければ」

と、眠ること自体がプレッシャーになってしまうことがあります。

でも、睡眠には個人差があります。

毎日完璧な睡眠を目指す必要はありません。

「昨日より少し気持ちよく起きられた」

そのくらいの感覚で十分です。

一方で、生活習慣を整えても強い眠気や不眠が続く、激しいいびきや睡眠中の呼吸停止を指摘される、日中の生活に支障が出る、といった場合には、睡眠障害などが隠れている可能性もあります。

その場合は「自分の生活習慣が悪い」と決めつけず、医療機関への相談も検討しましょう。


🌙 睡眠は「時間」から「回復できたか」へ

―「リカバリースリーパー」という新しい睡眠の捉え方

「私はショートスリーパーだから短くても大丈夫」
「健康のためには8時間寝ないといけない」

そんなふうに、睡眠を「何時間寝たか」だけで考えていませんか?

睡眠時間には個人差があり、年齢や生活スタイルによっても必要な時間は変わります。そこで大切にしたいのが、「何時間寝たか」だけではなく、「眠ったことで、きちんと休養できたか」という視点です。

ショートスリーパーが「短く眠る人」、ロングスリーパーが「長く眠る人」なら、リカバリースリーパーは、睡眠時間の長さだけにとらわれず、自分に必要な睡眠をとり、心と身体をしっかり休ませることを大切にする人です。

目指すのは「○時間眠ること」そのものではありません。

「何時間寝た?」から、「ちゃんと休めた?」へ。

朝起きたときに「疲れが取れた」「身体が少し軽い」「今日も動けそう」と感じられるか。そんな自分自身の感覚にも目を向けてみましょう。

そして良い睡眠は、夜だけでつくられるものではありません。

朝は起きる。昼間は身体を動かす。そして夜はしっかり休む。

こうした一日のリズムを整えることも、「回復できる睡眠」につながります。

睡眠は毎日の健康を支える大切な時間です。ショートかロングかという「長さ」だけではなく、これからは「自分はきちんと回復できているかな?」という“リカバリー”の視点も、毎日の睡眠に取り入れてみませんか?

📚 参考文献・参考資料

本コラムは、以下の公的資料・学術論文等を参考に作成しています。

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
  • 日本睡眠学会・関連研究「高齢者における睡眠ガイドのポイント」
  • J-STAGE掲載「夏期における寝室温熱環境が高齢者の睡眠に及ぼす影響」
  • J-STAGE掲載「短時間睡眠は糖尿病の新規発症に,不規則な就寝時刻は心血管イベントの新規発症に影響する」

※「リカバリースリーパー」について

本コラムで使用している「リカバリースリーパー」は、医学的に定められた正式な睡眠タイプや診断名ではありません。「何時間眠ったか」という睡眠時間だけにとらわれず、「眠ったことで十分に休養・回復できたと感じられるか」を大切にする睡眠の考え方を、分かりやすく表現するために本コラムで用いている言葉です。

睡眠には個人差があります。ショートスリーパーやロングスリーパーといった「時間」だけで考えるのではなく、「自分に必要な睡眠をとり、朝に休めたと感じられるか」にも目を向けてみましょう。